研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


「東アジア文化遺産フォーラム」への出席

ソウル宣言の共同発表・署名

 平成21年10月27日、韓国ソウルにて「東アジア文化遺産フォーラム(East Asian Cultural Heritage Forum)」が開催され、東京文化財研究所(東文研)からは鈴木規夫所長、岡田健・文化遺産国際協力センター国際情報研究室長、森井順之・保存修復科学センター研究員が出席しました。このフォーラムは韓国・国立文化財研究所(韓文研)の設立40周年記念行事の一環であり、韓文研と共同研究を実施している日本・中国・モンゴル・ロシア極東地域の各研究機関長が一堂に会し、文化遺産保護に関する国際共同研究の将来について議論が交わされました。議論の結果、参加各国の文化遺産が持つ特色を相互に理解したうえで、各研究機関のネットワークづくり、共同での人材育成にむけて努力することで合意し、「(東アジア文化遺産の保護に関する)ソウル宣言」を共同で発表、署名を行いました。

イラク人専門家の人材育成事業

染織品の保存修復研修(女子美術大学)

 イラク国立博物館保存修復研究室の専門家に対する人材育成事業は、2004年より運営費交付金およびユネスコ文化遺産保存日本信託基金をもとに実施されてきました。本事業では、これまでにのべ18名の保存修復専門家を研修生として受け入れてきました。そして帰国した研修生は、それぞれの技術を活かし多くの文化財の修復を行っています。 これまでの研修では、日本国内のさまざまな機関の協力を受け、金属器を中心に博物館に供与された設備を使用するための実習を行ってきました。本年度は、ユネスコおよびイラク国立博物館の意向を受け、染織品の保存修復と文化財保存修復や材質分析に必要な機器に関する研修(機器研修)を実施しました。6月18日から9月19日の3ヶ月と比較的短期ではありましたが、保存修復の技術の研修に加えて、その背景にある保存理念やさまざまな科学的知識などの講義、実習を取り入れることで、一修復専門家の育成にとどまらず、将来にわたり博物館の専門家を指導できる人材の育成を目指しました。 研修は、染織品の保存や分析を率先して行っている大学の研究者をはじめ、保存修復専門家の方々の協力の下に実施されました。財団法人静岡県埋蔵文化財調査研究所では、考古遺物の保存修復、発掘現場での対処法について学び、現場での取り扱いについて学びました。染織品の保存修復実習では、まず、保存修復の基礎や染織品の歴史についての基礎講義をそれぞれ専門の先生方に行っていただきまし、その後、女子美術大学の協力を得て、女子美術大学が所蔵する江戸時代の小袖、コプト布片を題材に、保存修復と保管管理について実習を行いました。機器研修では、東京文化財研究所保存修復科学センター、奈良文化財研究所の協力の下、さまざまな機器の使用方法、分析技術に関する講義と実習を行いました。
 2009年1月にイラク国立博物館の陳列の一部が再開しました。これまでに、イラク国内の混乱のなかで失われた文化財の3分の1が博物館に返還されてきており、少しずつですが確実に復興に向かっています。本研修に参加した保存修復家が博物館の将来を担う人材に成長し、イラク国内の復興に貢献することを期待します。

ワークショップ「中央アジア出土壁画の保存修復2009」の開催

ワークショップ参加者による修復作業体験

 タジキスタン国立古代博物館において、10月23日から28日まで、ワークショップ「中央アジア出土壁画の保存修復2009」を開催しました。本ワークショップは、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」の枠組みにおいて、東京文化財研究所が、タジキスタン共和国科学アカデミー歴史・考古・民族研究所と共同で行っている「タジキスタン国立古代博物館が所蔵する壁画片の保存修復」事業の一環であり、昨年度に引き続き、2回目となりました。  本年度は、中央アジア諸国(カザフスタン、キルギス、トルクメニスタン)の専門家3名の招聘に加え、ロシア、エルミタージュ博物館壁画修復室から2名、中国敦煌研究院から1名を招聘しました。また、タジキスタン国立古代博物館の研修生6名も参加しました。  ワークショップでは、ロシアの修復家から、旧ソ連時代に行われた中央アジア出土の壁画の修復方法について、また、各国の参加者から自国における保存修復の活動について報告がありました。さらに、私たちがタジキスタンで行っている保存修復の方法を紹介し、実際に作業の一部を体験してもらいました。今後も同様のワークショップを開き、中央アジアにおける壁画の保存修復活動の促進と、保存修復方法の改善を目指します。

第23回国際文化財保存修復研究会の開催

総合討議

 10月8日、43名の参加を得て、第23回国際文化財保存修復研究会「遺跡はなぜ残ってきたか」を開催しました。 遺跡保存を考える際には、傷んでいる部分が特に調査され、その劣化原因が研究されるのが一般的ですが、今回は敢えて良好な状態で保存されている遺跡について、その遺跡がなぜ今も残っているかを検討することから、傷んでいる遺跡の今後の保存を考えることを目指しました。発表は、イタリア・ローマ文化財監督局のパオラ・ヴィルジッリ氏による「アウグストゥスのパンテオンとハドリアヌスのパンテオン―将来的な保存のための調査、発掘、研究、診断―」、鳥取県埋蔵文化財センターの原田雅弘氏による「青谷上寺地遺跡の保存環境」、インドネシア大学のチェチェプ・エカ・プルマナによる「インドネシア・南スラヴェシの洞窟壁画」の3件で、その後、総合討議が行われました。それぞれの遺跡が残されてきた経緯や科学的な条件などを理解することから、今後の遺跡保存に向けた有用な情報が参加者の間で共有されました。

大エジプト博物館保存修復センター保存修復専門家人材育成詳細計画策定調査ミッション

収蔵庫視察
大エジプト博物館保存修復センター視察

 文化遺産国際協力センターでは国際協力機構(JICA)の要請を受けて、「大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum)」の付属機関である「保存修復センター」の設立と稼働に向け、技術的な支援を続けています。
 来年4月から開始予定であるフェーズⅡ(第2段階)の本格協力段階における人材育成計画策定のために、今回は最長10月26日から11月14日の日程で(担当専門分野によって日程が異なる)、保存修復や収蔵管理の日本人専門家10名に加え2名の東文研職員からなるミッションをエジプトに派遣し、事前調査を行いました。
 期間中は、大エジプト博物館保存修復センターを2度視察し、エジプト側プロジェクト執行部や現場で準備を進めている修復家たちと話し合いを重ね、センター設立の進捗状況を把握することができました。また、文化財の移送が予定されている博物館の収蔵庫視察や修復家と話をする機会があり、エジプトの保存修復の現況を把握することができました。これらの調査をもとに、専門家が人材育成計画を執筆したものを東文研がとりまとめ、JICAを通してエジプト側に提出する予定です。今後ともセンター設立とその稼働に向けて、協力を進めていきます。

9月施設訪問

 台東区立御徒町台東中学校7名
 9月18日に、仕事の内容を知り、働くことの大切さを知るという主旨の「職場訪問学習」により来訪し、中野副所長の概要説明ののち、4階文化遺産国際協力センター、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

感謝状の贈呈

前列左より、佐藤代表取締役、鈴木所長、後列左より、田中企画情報部長、中野副所長、北出管理部長

 8月10日に研究所に搬入のあった、株式会社大塚巧藝新社(佐藤未春代表取締役)からの刀剣のガラス乾板ならびに紙焼き資料一式(企画情報部にて受入)について、ご寄贈いただいたことに対して、9月14日佐藤代表取締役に鈴木所長から感謝状を贈呈しました。
 その後、所長室にて文化財保存・修復並びに美術品等の展覧会に関する文化事業など、多岐にわたる話題について懇談しました。
 当研究所の事業にご理解を賜りご寄贈をいただいたことは、当研究所にとって大変有難いことであり、研究所の事業に役立てたいと思っております。

/ 高栁明)

所内エントランスのパネル展示「X線透過撮影による仏像の調査・研究」

エントランス入口側
エントランス中央
エントランス奥

 9月18日(金)より、企画情報部の担当で、所内エントランスのパネル展示「X線透過撮影による仏像の調査・研究」を行っています。この展示は企画情報部の研究プロジエクト「美術の技法・材料に関する広領域的研究」の一環として保存修復科学センターの協力を得て、これまで行ってきた調査・研究の一端を紹介するものとして企画されたものです。なお、このパネル展示は年末までを予定しております。

カリフォルニア大学バークレー校日本文化研究所シンポジウム

 今年度9月25日から27日の3日間、カリフォルニア大学バークレー校日本文化研究所の創立50周年を記念して、Tracing Japanese Buddhism(日本仏教学のあゆみ)と題したシンポジウムが開催されました。仏教学、仏教史、仏教美術史など、仏教に関わる領域を専門にしているアメリカ、日本、ヨーロッパの研究者が一同に会し、多くの講演や報告が行われました。各日80名近くにのぼる参加者とともに活発な議論が交わされ、お互いの研究成果を知る貴重な機会となりました。
 1日目には、“Numinous Materials and Ecological Icons in Premodern Japanese Buddhism”をテーマにした仏教美術史のパネルがあり、そのパネリストの一人として、皿井は平安時代初期一木彫像の代表作である神護寺薬師如来像に関する発表を行いました。その他のパネリストは、木彫像に用いられる材の樹種について、近年の研究成果などに関する知見を紹介するなど、最新の情報を交えた報告を行いました。 アメリカでは日本の仏教彫刻に関する研究者が数少ないこともあり、仏像に関しては知られていないことが多いようです。今後こうした機会を活用し、海外においても日本の仏像に興味を抱いてもらえるよう、国際交流を積極的に進めていきたいと思います。

今泉雄作『記事珠』について

今泉雄作『記事珠』 巻2には「光琳八橋図」の摸写が描き添えられ、図様や図中の色注などから現在東京国立博物館に所蔵される「伊勢物語八橋図」であることがわかります。

 昭和5年の開設以来、当研究所は文化財に関する資料を収集・整理してきました。それらは目録化し、公開・閲覧できるよう鋭意努めていますが、なにぶん80年近くの長きにわたって集積した諸資料の中には、時として未整理のまま、日の目を見ずにいるものもあります。
 ここでご紹介する今泉雄作の『記事珠』は、そのように長らく埋もれていた資料のひとつです。今泉雄作(1850~1931年)は、文部省や東京美術学校(現、東京藝術大学)、東京帝室博物館(現、東京国立博物館)に勤務し、岡倉天心とともに近代日本の美術行政を支えてきた人物です。『記事珠』は明治20年から大正2年にかけての、全38巻からなる今泉自筆の日記で、とくに彼が鑑定や調査を行なった美術工芸品が略図を交えながら詳細に記録されています。これらは資料整理中に当時学生だった依田徹氏(さいたま市文化振興事業団)が発見し、すでに今泉雄作研究で実績のある当研究所客員研究員の吉田千鶴子氏によって確認されました。
 もっか『記事珠』の書き下しを進めている吉田氏によって、その中間報告が9月30日に企画情報部研究会で行われました。今泉の広範にわたる古美術品の記録に、さまざまな分野を専門とする各部員から大きな関心が寄せられ、資料の重要性をあらためて認識しました。

神田松鯉師による講談の実演記録

神田松鯉師による講談の実演

 無形文化遺産部では、2002年度(当時は芸能部)以来、一龍斎貞水師と宝井馬琴師による講談の実演記録を作成しています。両師には、近年上演の機会が得られ難くなっている長編物の連続口演をお願いしていますが、今年度より新たに神田松鯉師からもご協力を得られることとなりました。
 松鯉師も長編の続き物を得意とされています。数多くのレパートリーの中から、時代物『徳川天一坊』と世話物『幡随院長兵衛』を選んでいただきました。第一回目の記録作成は、9月29日に実施されました。

国際研修「漆の保存と修復」

スターディーツアーにおける漆掻き見学
漆工品の修復実技

 保存修復科学センターでは、9月2日から15日にかけて国際研修「漆の保存と修復」をICCROM〔国際保存修復研究センター〕と共同開催で行いました。この研修は、講義、実技、見学からなります。今回の研修には、オーストリア・ドイツ・イギリス・ポ-ランド・ロシア・ポルトガル・カナダ・アメリカから8カ国9名の研修生が参加し、漆工の歴史、漆の科学と調査方法、伝統的な漆工技術、漆工品や漆塗装の修復理念と修復方法などについて、それぞれの専門家から学びました。またスタディーツアーでは、日本産漆の80%ちかくを生産している二戸市浄法寺町周辺を訪れました。まず、八戸市縄文学習館や御所野縄文博物館で日本列島における漆のルーツにあたる縄文時代の出土漆器を見学し、次に浄法寺町での漆掻きと隣の青森県田子町での漆掻き用具作りを見学しました。さらに八幡平市では安代漆工技術センターでは実際の漆精製作業を見学し、現在では珍しくなった大正時代から昭和初期に使われていた古い時代の漆室(塗蔵)と漆工用具も見ました。そして、最後に中尊寺金色堂を見学しました。今回の研修生は、自分の美術館や博物館に日本からもたらされた漆工品を所蔵しておりその対処に苦慮しているか、実際の修復現場にいる人たちが主でした。そのため、問題意識はとても高く、皆、大変熱心でした。とくに「日本の漆のことはある程度本で学んだことはあるが、実際の物や作業を見て勉強できたことは、今後に向けてとても良い経験になった」という言葉はとても印象的でした。

アジャンター壁画の保存修復に関する調査研究事業~第2次ミッション報告

アジャンター石窟第2窟における高精細写真撮影
アジャンター石窟第2窟における高精細写真撮影

 東京文化財研究所とインド考古局は、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」の枠組みにおいて、アジャンター壁画の保存にむけた共同研究に取り組んでいます。アジャンター壁画は、玄武岩の亀裂を伝って洞窟内に浸入した雨水による害、コウモリの糞尿による害(白色化、黒色化)、人為的な要因による損傷に加え、過去の修復に用いられたシェラック(ワニス)の黄化による色調変化や彩色層の亀裂と浮き上がりといった問題を抱えています。
 平成21年9月に行った第2次ミッションでは、壁画の保存状態を詳細に記録するため、第2窟内部壁画全面を対象とした「高精細デジタル写真記録」、「色彩計測」を行いました。インド人専門家と共同で撮影・計測作業を行うことで、文化財保存におけるデジタルドキュメンテーションに関する知識の共有、技術交換を目指しています。

タイ・スコータイ遺跡での日タイ共同研究

スリチュム寺大仏

 東京文化財研究所は、タイ文化省芸術局とタイの文化財の保存に関する共同研究を行っており、9月14日~16日、共同の現地調査を行いました。スコータイ遺跡のスリチュム寺院には、煉瓦の芯に表面を漆喰で仕上げた高さ15m余りの仏像があります。その表面にはかつてコケ類や藻類が繁茂していましたが、11年前の撥水処理により、しばらくの間はきれいな状態を保っていました。しかし、近年再び藻類などによる汚れが部分的に目立つようになったため、その対策について仏像自体の観察やサンプルを設置しての実験、微気象の観測などにより検討を行っています。今回はスリチュム寺院でのこのような活動のほか、周辺の遺跡での観察も実施し、特に、覆屋を遺構に設置した場合の効果や欠点について検討を行いました。

8月施設訪問(1)

 株式会社山下設計4名
 8月10日に、株式会社山下設計4名が、海外での文化財保存・研究センター設計等の参考のため当研究所を来訪。東文研で行なわれている調査・研究について、地階無形文化遺産部実演記録室およびX線撮影室、3階保存修復科学センター修復アトリエ、4階保存修復科学センター分析科学研究室を見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。

8月施設訪問(2)

 文化庁次長ほか3名
 8月20日に、文化庁次長 合田氏ほか3名が概算要求事項にかかる現状視察のため来訪。東文研で行なわれている調査・研究および概算要求の主な概略について説明ののち、4階保存修復科学センター化学実験室・生物実験室、3階保存修復科学センター物理実験室を見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。

8月施設訪問(3)

 学習院女子大学大学院国際文化交流研究科8名ほか
 8月26日に、学習院女子大学大学院生8名が国際交流や文化事業を実施している諸団体の現場における実務の一端を学ぶため来訪。東文研で行なわれている調査・研究について、中野副所長より概要説明ののち、3階保存修復科学センター修復アトリエ、4階文化遺産国際協力センターを見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。

8月施設訪問(4)

 財務省主計局文部科学第5係主査ほか
 8月28日に、財務省主計局文部科学第5係主査 横江氏ほか1名が視察のため来訪。東文研で行なわれている調査・研究について、中野副所長より概要説明ののち、4階保存修復科学センター化学実験室・生物実験室、2階企画情報部ガラス乾板保管庫を見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。

『年報』2008年度版の刊行

『東京文化財研究所年報』2008年度版

 このたび『東京文化財研究所年報』2008年度版を刊行しました。
 『年報』は、機構、年度計画及びプロジェクト報告、その他の活動、個人の研究業績、研究交流、主な所蔵資料、研究所関係資料など、昨年度、研究所が行ったさまざまな活動の実績を網羅的にまとめた年次報告書です。
 『年報』は、国および都道府県の美術館・博物館、都道府県・政令指定都市の教育委員会や埋蔵文化財センター、文化財研究部門をもつ大学図書館に資料用として1部を配布しています。
 また『年報』はホームページ上でもPDFファイル形式で配信しています。どうぞご利用ください。

近現代美術の保存・修復に関する欧州調査

ICNアムステルダム本部、素材のラボ。右手の棚には、 研究員が蚤の市などで収集したさまざまなプラスチッ ク製品が、色別に、ところ狭しと並んでいます。

 企画情報部が推し進める資料学的研究の一環として、8月2日から13日まで、英国テートギャラリー、オランダ文化財研究所(ICN)を中心に調査を実施しました。
 近現代美術作品においては、さまざまな実験的な様式や素材が用いられてきていますが、近年、それらの作品をいかに後世に継承していくのかが大きな課題となっています。そもそも朽ちていく過程そのものが作品の一部であったり、プラスチック等の新素材が利用されていたり、文化財の保存・修復に関わる組織や専門家にとって新たなチャレンジとなっています。
 今回の調査では、アムステルダムのICN内に拠点をもつ「現代美術保存のための国際ネットワーク」(インカ:INCCA)と、その事業の一環としてロンドンのテート・ブリテンが主催する現存のアーティストに自らの作品について語ってもらい、それをアーカイブとして組織的に保存・公開していくという「インタビュー・ウィズ・アーティスツ」プロジェクトを中心に、近現代美術をめぐるこの新たな問題に欧州ではどのように取り組んでいるのか、関係機関を訪問し、関係者の方々にお話をうかがいました。
 特筆すべき成果としては、東文研が昨年度に開催した国際研究集会のテーマでもあった「オリジナル」とその保存をめぐる問題について大いなる示唆を得たことはもちろん、東文研のオランダ版ともいえるICNという機関、その中のINCCAというネットワーク、その一プロジェクトを担うテートの三者の関係が非常に興味深く思われました。すなわち、 資金・人材不足や機関の民営化など世界共通の厳しい状況に直面しながら、いかに新しいプロジェクトを運営していくかというモデルを提示していました。その詳細については、企画情報部が刊行する『美術研究』誌上であらためてご紹介したいと思います。

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